レビュー「岳」

<あらすじ>
日本アルプスで遭難した人々を助ける山岳救助ボランティア、島崎三歩。三歩はその時々に合わせた最適の判断を行い、冷静な救助活動をしていく。しかしそのことが必ずしもすべての遭難者を救助できることにつながるわけではない。そんな中にあっても三歩は山の素晴らしさと恐ろしさを感じながら、今日も救助に向かう。

<一応雑感>
 1つのストーリーが1話完結か、もしくは数話完結となっており、読みやすい。(だいぶ前にこのブログで感想を殴り書きした「イキガミ」に構成は似ている)各話に登場する人物すべてに何らかの物語がかたられることになっており、それがこの物語に深みを与えている。
 人は何か目的があって山に登る。それは上ったときの達成感かもしれないし、頂上の景色を誰かに見せるためかもしれないし、その山に墜落した飛行機の慰霊のために登るのかもしれない。そんな彼らが遭難し周りのあらゆるものから隔絶されてしまったとき、現れるのが山岳救助ボランティアの三歩である。
 
 三歩は救助する側の立場から、彼らに向き合い、彼らを助けようと最善の努力を尽くす。しかし、すべての命を救えるわけではない。1人の救助確実な命があり、もう一人の命を救うためには雪崩の危険性と向き合わなければならなくなったとき、主人公は救助確実な1人の命を救うためにもう一人の命を見捨てることになる。それは薄情なように見えてもちろんそうではない。山の厳しさを知っている三歩にとってはそれは「仕方のないこと」なのだ。
また救助しても搬送の途中で亡くなってしまう人もいるし、山の崖で遺体で発見された人の遺族から「もっと早くから助けに行ってくれれば!」とやり場のない怒りをぶつけられることもある。それもこれも主人公は彼らの真意をすべて理解して、話を聞き、そして彼らの訴えを受け入れる優しさを持っている。

そういった、冬山という極限状況の中でのさまざまな人の限界やをこの漫画は淡々と変わりなく描いていく。

絵のタッチはいかにも青年漫画という感じで、それが作品の重厚感や安定感を生み出していていいと思う。
絵のことはよくわかんないからこれ以上言うのは差し控えたい。

また、所々で出てくる主人公の過去の話や昔の友人の部分にかけて伏線が張られており、伏線がどのように将来に結び付いていくのかというのも見ものだと思う。


「この作品を読んで泣いた」という感想もネット上ではたくさん見たが、自分としては泣くことはなかった。
むしろ「なぜ山に登るのだろう」とか「そこまでして三歩がしていることとは何なのだろう」と考えさせられることのほうが多かった。

1冊524円の価値はあると思う。